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難病全ゲノムイニシアチブ
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プロジェクト概要Project Outline

本プロジェクトの概要について、
研究副代表者 水澤英洋氏に聞きました。

研究副代表者水澤 英洋
厚生労働省難病ゲノム医療推進統合事業 研究代表者
国立精神・神経医療研究センター 理事長特任補佐

Q :本プロジェクトで難病の全ゲノム解析に取り組む意義はどんなことでしょうか?

A :多くの難病は遺伝子の変異が原因で発症すると考えられています。難病のうち、1個の遺伝子の変異で起こる「単一遺伝子性疾患」では、原因遺伝子変異がわかると、治療法の開発につながることがあります。例えば、変異した遺伝子をもつマウスをつくって、病気が起こるしくみを解明し、薬をつくることが可能になります。最近では、変異していない遺伝子を投与する「遺伝子治療」によって、非常に重い難病が劇的に治るようになった例もあります。このため、まだ原因遺伝子変異が突き止められていない「未診断疾患」について全ゲノム解析を行い、原因がわかれば、治療法の開発を待っておられる患者さんたちにとって大きな福音になると思います。

一方、難病には、複数の遺伝子や環境因子が関与する「多因子性疾患」もあります。例えば、パーキンソン病の患者さんは日本に約13万人もおられますが、その90%以上が多因子性だと言われています。多因子性疾患では、複数の遺伝子の変異の中に病気を促進するものと抑えるものとがあり、それらの組み合わせによって個人個人の病気のなりやすさ・なりにくさが決まっていると考えられています。全ゲノム解析を行えば、このような個人差を明らかにでき、一人ひとりに合った薬や治療法を選ぶ「精密医療」の実現に貢献できると思います。

単一遺伝子性疾患の場合も、ゲノムの中で、変異をもつ遺伝子以外の部分が病気のなりやすさに関係している可能性があります。このため、原因遺伝子変異がわかっている場合でも、全ゲノム解析で病気のなりやすさに関係する部分がわかれば、よりよい治療法の開発につながると期待されます。

Q :本プロジェクトの目的と進め方をご説明いただけますか?

A :本プロジェクトの目的は、全ゲノム解析を効率よく、信頼性高く行うための事業体である「全ゲノム解析基盤」を構築することです。そのために、「先行解析」を行いながら基盤構築に必要な研究開発を行い、将来の「本格解析」につなげます。

先行解析の対象は「既存の」検体です。検体とは、患者さんからいただいた血液などのことです。難病と遺伝子変異の関係を明らかにするには、検体のゲノムを解析したデータと、患者さんの病状や治療歴などを記録した「臨床情報」を突き合わせて検討する必要があります。実は、このような研究を行っている研究拠点が国内には10ヵ所ほどあり、実際に難病の患者さんを診ている協力医療機関から検体と臨床情報を集めています。しかし、全ゲノム解析には費用も人手もかかるため、解析は、ゲノム全体ではなく遺伝子の部分だけを調べるエクソーム解析が中心となっています。そこで、本プロジェクトでは、これらの研究拠点が保有する約9000件の検体の全ゲノム解析を行う計画です。すでに、2021年3月までに2300件の全ゲノム解析を終え、データを各研究拠点にお返ししました。データをもとに、いろいろな発見をしていただけることと期待しています。

全ゲノム解析データは、本プロジェクトの外の研究者や製薬企業などの研究にも役立つものですから、データを外部の方に提供するしくみを整えることも、本プロジェクトの重要なミッションです。そこで、全ゲノム解析データと臨床情報を格納するデータベースの構築と、データ提供手続きの検討を進めています。究極の個人情報であるゲノムデータを扱うため、セキュリティを担保することに注力しています。なお、AMED(日本医療研究開発機構)でも「CANNDs」というデータ利活用サービスを立ち上げる予定であり、外部へは2つのルートを通じて、データが提供される見込みです。

本プロジェクトの終了後、本格解析に移行した際には、「全ゲノム解析基盤」が全国の医療機関から直接、検体と臨床情報をいただいて全ゲノム解析をお引き受けし、そのデータを広く提供するという、国としての体制が整うことになります。

図 本プロジェクトの体制

Q :本プロジェクトにかける先生の思いをお聞かせください。

A :私は1976年に大学を卒業し、神経内科医となり特殊な筋肉の病気を発見して78年に学会に報告しました。この病気の原因遺伝子変異が明らかになったのは、病気の発見から20年以上経った2001年のことです。それまでは、治療法を開発したくても手も足も出ない状況でしたが、原因遺伝子変異がわかったことにより治療薬の開発が急速に進み始めました。

一方、遺伝子の変異が原因と考えられる病気を集めた国際的なデータベースには、9000を超える病気が登録されており、そのほとんどが難病です。しかし、そのうちで原因遺伝子変異が明らかになっているものは6000余で、3000以上の病気の原因がまだわかっていません。

このような経験と状況から、「早く治療薬を開発してほしい」という難病の患者さんたちの願いに応えるには、ゲノムの中にある難病の原因の全容を明らかにすることが何より大切だと考えています。そのために、本プロジェクトが貢献することを強く願っています。